【3.11談話】東日本大震災から9年 節目の年を迎える福島の復興を進めるために行うべきこと
~ ふくしま連携復興センター談話 ~
■福島を取り巻く課題
2020年3月11日で、東日本大震災(以下、震災)の発生から9年が経過した。震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下、原発事故)は、福島県に甚大な被害をもたらし、そして我々に数多くの課題を投げかけた。
これまで復興に向けての様々な課題に対応すべく、国や自治体、民間企業や医療・福祉等専門機関そしてNPOやボランティアなどの様々な取り組みが行われてきた。その結果、少しずつ福島の復興が前進している面も見られる。今年度の動きとしては主なもので、大熊町の避難指示の一部解除や常磐線の全線復旧、また双葉町の避難指示の一部解除などが挙げられる。しかし、福島第一原発の廃炉作業の度重なるトラブルや敷地内に溜まり続ける汚染水の問題や、東京に避難する区域外避難者(自主避難者)に対し福島県が訴訟を決めるなど、払拭されない課題は数多い。2月18日に福島県の内堀知事が海外のプレスにも語ったように県内外にはいまだに40,000人を超える避難者が厳しい避難生活を送っており、まだまだ復興は道半ばであると言える。2021年3月が設置期限とされていた復興庁の10年間の延長が閣議決定されたことも、その証左であろう。
復興プロセスの長期化によって、新たに発生した課題も少なくない。
長期化する避難生活により、地域コミュニティなどから孤立し、精神的ストレスが深刻化する避難者は増加の一途をたどっている。それは、弊センターが全国26か所に配置している生活再建支援拠点に寄せられる避難者からの相談からも明確であり、心のケアが益々重要になっている。
また、2014年4月の田村市都路地区に始まり、昨年4月には大熊町、この3月には双葉町の一部に及んだ避難指示の解除は、復興には欠かせない取り組みではあるものの、そこから新たな課題が発生している。
避難指示の解除により、国や自治体、民間団体などが行っていた支援策も徐々に縮小され、東京電力による精神賠償も打ち切りが進んでいる。これまで長期にわたり避難を強いられていた地域住民の中には、生業が奪われ、慣れない避難先での生活を送る中で、支援や賠償金による収入に支えられてきたというケースも少なくない。多くの場合、避難指示が解除されても元通りの生活や収入を取り戻すことは困難であり、こうした被災者が大きな精神的ストレスを抱え、また生活困窮に陥るといったことも危惧されている。このように震災や原発事故を起因とした生活困窮の発生は、従来とは全く異なる過程を辿っており、この課題の背景や本質を良く見極めて対応することが求められる。
避難指示は解除されても帰還率が低迷している自治体は多い。避難の長期化によって生活基盤が避難先で整ったケース、放射能汚染に対する不安が完全に払しょくされず、また病院や商業施設、学校などの生活インフラが十分に整ったとの判断がなされないケースなどがその理由である。避難した地域住民の一部は帰還し、また避難を継続、また他の地域へ移住といった様々な選択をすることで、地域コミュニティの分散や支援の手の希薄化などが深刻になり、被災者の孤立が益々深まるといった点が懸念されている。加えて、帰還した住民と帰還しない住民の軋轢も起きているとも言われている。
このように、復興課題の複雑化が進んでいる。前述した「県内外にはいまだに40,000人を超える避難者がいる」ことは、単に人数の問題だけではなく、福島の復興課題が複雑になり、先が見通しにくいフェーズに入っていることを意味する。
そして、これまで復興を支えてきた担い手の「支援疲れ」も深刻化している。課題の本質が捉えにくくなるとともに、自分の役割を見失うといった要因に加え、資金不足や国民の関心の低下による外部支援の縮小などによって支援活動を終了する担い手も増えている。
2020年は、東京オリンピックとパラリンピックが開催される。「復興五輪」の名のもとに、福島では聖火リレーのスタート地点がJビレッジに決定し、また野球やソフトボールの試合が行われることになっている。これは復興に向けて明るい話題であることは間違いないが、上記のような課題が陰に隠れてしまい、またオリンピック終了後に懸念されている景気後退などの課題に埋もれてしまうようなことは決してあってはならない。震災の発生から10年という節目の年を迎える福島にとって、被災者や地域住民が望む形での復興を進めるためには、まさに今が正念場であるといえよう。
■ふくしま連携復興センターが取り組むこと
1年後の2021年3月11日に、震災と原発事故の発生から10年となる。10年という数字が何を意味するかは、被災者によって、地域によって、また復興に取り組む行政や民間等の担い手にとってそれぞれ異なるであろう。
福島で復興支援活動を行っている我々にとっては、長い道のりの中の過程でしかない。しかし、この10年を節目と捉え、中には一区切りとする支援主体も少なくないのではないかと想像される。復興を進めるために、多くの主体による連携・協働の形成を促進することをミッションの一つとしている弊センターとしても、活動のターニングポイントであることは間違いない。
昨年度より弊センターでは会員とともに、ポスト復興創生期間において民間セクターが取り組むべき支援活動のグランドデザインを描き、加えて対応すべき課題の洗い出しを行っている。また、取り組みを継続していくための体制づくりとその資金獲得についても模索を続けている。
そして、ポスト復興創生期間における復興支援活動をより効果的なものにするために、震災以降市民活動がどのような活動を行い、どのような成果を上げてきたかを振り返り、検証を始めている。昨年度より弊センターでは、復興庁の交付を受けた事業を通じて幾つかの復興支援の取り組み事例を検証してきた。今後は更に多くの事例の検証を予定している。弊センターが全国の避難者支援団体との協働事業として行ってきた生活再建支援拠点の運営なども検証の対象として加え、今でも把握できているだけで約30,000人に上る県外避難者支援の継続に生かしていくことなどもその一つである。
また、これらの検証内容を県内外に発信していく。検証内容が、県内の市民活動団体が自らの活動を進めるうえでの参考になれば、弊センターが目指している「市民社会ふくしま」の熟度を上げていくことにつながるであろう。
一方で県外への発信により、近年日本各地で相次ぐ自然災害や、今後発生が予想されている大規模災害への対応を各地の市民活動団体が行う上で役立つノウハウや経験の伝承となることを目指す。地震・津波に加え、原子力災害を経験した福島の復興支援活動は、県外の市民活動団体にも役立つ教訓としてその伝承が望まれている。こうした期待に応えるべく、弊センターでは復興検証の本格化を取り組みの柱としていく。
昨年10月に発生した台風19号の被害は、福島県でも広域に及び、未だに大きな影響を与え続けている。初期対応は収束に向かいつつあるが、被災者の生活再建支援はこれからが正念場となっていく。
こうした中、被害が大きかったいわき市や郡山市では、行政や社協等の福祉機関、市民活動団体をはじめとした民間セクターによる災害支援のネットワークが立ち上がり、被災者支援の取り組みが行われている。この動きにおいては、震災や原発事故への対応を通じて関係構築した復興の担い手が数多く加わることでネットワーク組織が形成されている。また、今後の被災者の生活再建における支援には、震災復興への取り組みのノウハウが生かされるはずである。その中で市民活動団体が主要な役割を果たしているのは、これまでの経験が生かされているということに疑いはない。
福島の復興課題は、今後もますます多様化、個別化が進む。その課題に対応するためには、これまで以上に数多くの復興の担い手が必要となっていく。一方で、10年目の節目の年を一区切りとして復興活動を縮小、あるいは終了する担い手も少なくないのではないかと思われる。そこで、多岐にわたる課題に長期間対応し続けるためには、新たな担い手の発掘や育成が必要になるのは必至である。そのためにも、市民の関心を再び喚起し、また支援活動を行う上で参考になる事例やノウハウを提供するために、弊センターはこれまでの復興支援活動を検証し、発信し、新たな担い手としての市民の参画を促す。
この「市民が地域を支える『市民社会ふくしま』」を確立していくための取り組みを、節目の年を迎える2020年度には最大限注力していく所存である。
2020年3月11日
一般社団法人 ふくしま連携復興センター
代表理事 天野和彦