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  • 2021.03.11

【3.11談話】東日本大震災から10年

10年目に残る課題と、これからの復興を進めるための視点

~ ふくしま連携復興センター談話 ~

■福島を取り巻く課題
 2021年3月11日で、東日本大震災(以下、震災)の発生から10年という節目にさしかかった。しかし、震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下、原発事故)が福島県に及ぼした被害と影響は10年という年月を経ても区切りにするには程遠く、数多くの課題が残り、また新たな課題をも投げかけてきている。
 この3月末で第1期復興・創生期間が終了し、復興庁10年延長により4月からの5年間に新たな第2期復興・創生期間が始まる。福島復興再生特別措置法に位置付けられた福島イノベーション・コースト構想により、原子力災害によって甚大な被害を受けた福島浜通り地域等において「創造的復興の中核拠点」として、産業集積の促進が推進されている。更に環境の回復、新産業の創出等の創造的復興に不可欠な研究及び人材育成を目的とする国際教育研究拠点の整備が謳われた。
 一方で福島第一原子力発電所の敷地内に貯まり続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の処分方法については、昨年一旦は結論が先延ばしになったものの、次の年度では「政府が責任を持って結論を出す」ことになっている。海洋放出ともなれば、再び風評被害により、復興にブレーキがかかることは想像に難くない。

◯県内での被災者支援の課題
  震災を直接の起因としない震災関連死と呼ばれる亡くなり方をする被災者が岩手・宮城に比べ福島県が
 突出して多い。原発事故直後から放射能という見えないものへの恐怖に対して強いストレスを抱えながら
 県内外に避難した。避難先では慣れない環境に孤立感を深めるなど、それがまた強いストレスに繋がった
 と思われる。最近では避難先での住宅支援等が打ち切られ、止むなく帰還してくる人達が増えているが、
 そのこともまた大きなストレスとなっている。様々なストレスから、帰還したは良いが孤立化や心の問題
 を抱え、それが生活困窮や自死に繋がってしまうケースもでている。原子力災害が与えたこうした様々な
 影響について発信していく必要がある。
  また、震災から10年経って、これまでは民間セクター等が課題やニーズを拾い、支援に繋げてきたものが、
 被災者自らが手を上げ訴えなければ支援に繋がらなくなっている。特に生活困窮や心のケアの問題等は、
 与えられる支援から自ら求めて行く支援に変わってきている実態がある。
  沿岸部で原発事故の影響が比較的少なかった地域での津波被害者の状況についてあまり触れられてこなかっ
 た。津波被災地では建物や道路などのインフラは整備されたが、高台に作られた移転先への住民の帰還には
 繋がっておらず、過疎化が一層進みコミュニティ形成が進んでいない。

◯広域避難における課題
  原発事故による放射能の影響により居住地から県内外に避難している方は、震災から10年経つ現在でも
 3.7万人に上っている。特に県外へ避難している方は未だ2.8万人に上っているが、時間の経過とともに課題
 の複雑化、多様化が進んでいる。
  避難生活が長期化していることにより、地域コミュニティなどから孤立し、精神的ストレスが増すことで、
 家族関係に問題が生じたり、心身の健康を損ねるなど深刻な状況にある避難者は増加している。事業で設置
 している生活再建支援拠点(以下、拠点)に寄せられる相談も、支援策の相談は減少し、生活に関する相談
 が増加してきている。10年という時の経過により介護などの問題、世帯状況の変化による課題等も生じてき
 ている。更に、心に問題を抱える方からの相談が増え、専門家による関与が求められる事例が増加している。

◯移住定住での課題
  地域おこし協力隊(以下、協力隊)で入ってきている人材の定着率は、以前に比べて徐々に下がってきて
 いる実態がある。協力隊が入っているのは過疎地域のため、外部人材が残るための生活を維持する仕事が
 無く、2~3の仕事を掛け持ちでやらなければならないのが実態である。全国的に同じ傾向はあるもののこの
 傾向が顕著になっており、こうした外部人材が定着できずに流失することは、過疎の進む自治体にとっては
 地域維持の人材を失うことになり、延いては福島の復興のスピードをダウンさせている。
  地域を作る新たな担い手として交流人口を呼び込み、新たに加わった人材を含めてコミュニティを再生
 させる施策の必要性は否定できない。しかし、県内外に避難している方々の住宅支援を打ち切る一方で、
 財源を変えて移住定住する人にお金を支給する施策は大きな矛盾を抱えている。

■ふくしま連携復興センターが取り組むこと
  震災と原発事故の発生から10年となり、資金・人材の不足や震災の記憶の風化や支援事業の縮小などによって支援活動を一区切りとする支援主体も出てきている。復興を進めるために、多くの主体による連携・協働の形成を促進することをミッションの一つとしている弊センターとしても、センター自体の基盤強化や新たな連携先の掘り起こし等を進める等、活動の転換期にきている。

◯県内での被災者支援
  福島においては復興のフェーズの違いにより被災地域によって長期的なプロセスが継続しており、復興課題
 は、複雑化、多様化、個別化が進んでいる。その課題に対応するには、多くの復興の担い手が必要となって
 いるが、10年の節目の年を一区切りとして復興活動を縮小、あるいは終了する復興主体も少なくない。
 弊センターでは、「心のケア」や「生活困窮者支援」の問題について、財源や人材が縮小される中でネット
 ワーク体を作って支援洩れの無いよう隅々まで行きわらたる体制作りを促進している。弊センターが10年間
 培ってきた支援対応策やノウハウを地域貢献の形で地域に移行させ、財源が乏しくなり一つの団体では継続
 できなくなる支援をネットワーク体で補って、長期的に必要とされる事業として継続することを目的にした
 い。弊センターがプラットフォームの役割を担い、各地域を網羅できるよう多くの団体と連携・協働したい
 と考えている。

◯広域避難者支援
  県外避難者から拠点に寄せられる相談が、避難由来から生活に関するものが増え、複雑化、多様化、深刻
 化しており、拠点だけでは対応が難しくなっている。避難者が帰還をするしないに関わらず、避難者が避難
 先の地域の生活者として生活できるよう、それぞれの地域にある既存の枠組みの中の対象者として支援して
 いくことが必要である。そのために各拠点とともに避難者を地域で支える取組を進めていく。

◯移住定住
  外部人材の採用は市町村が行い、役場がすべてを決めてしまっており、受け入れる地域側が受入に関わらな
 い地元不在の形で進められている。外部人材の定着には、市町村職員への研修で行っても限界があり、伴走
 支援の必要性も論じている。また、地域に雇用の場がないことから、「お金が回る仕組みがないから住み続
 けられない」というのは復興の文脈で解決するのは難しい。現段階では、定着率の高い先進県との連携を
 図り、サポートの仕方や組織マネジメントについてアドバイスを頂くことを模索している。何を行えば結果
 に繋がるかのヒントを得ることで、流出に歯止めをかけていく。

 2018年頃から懸案となっていた市民活動団体が震災、津波、原発事故の複合災害にどのように向き合ってきていたかを検証する事業を、今年度ようやく実施に漕ぎ着けることができ、間もなく報告書として発信できる。未曾有の複合災害に対処した市民団体の活動の記録は、最近多発する大規模な自然災害や、今後発生する可能性を言われている首都直下や南海トラフ地震への対応に一定の知見や教訓を発信することが出来るものと考える。こうした取り組みは、弊センターの「ビジョン」「ミッション」で目指している「市民社会ふくしま」実現に向けた取り組みの一助になることを期待している。
 一昨年末から感染が拡大している新型コロナウイルス感染症は、10年前の放射能汚染と同じ恐怖を人々に与えている。「見えない」、「分からない」ことで人々は不安に思い、感染者への偏見や差別を自らの中で正当化し罪悪感なくSNSを利用したバッシングが繰り返されている。福島県内では「10年前と同じではないか?」と感じた方も多かったことと思われる。また、経済にも大きな影響を与え、失業者の増加や生活困窮、心のケアを必要とする事例も数多く報道されている。今後こうした様々な影響が震災被災者の生活にも影を落とすことは間違いなく、復興の過程はますます複雑化することが考えられる。奇しくも震災から10年の節目に起こったコロナ禍による影響にも注視していかなければならない。
 この10年は節目ではあっても区切りではないと冒頭述べた。ふくしま連携復興センターは、「子ども・被災者支援法」の理念にある「地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援する」「(被災者生活支援等施策は)被災者の支援の必要性が継続する間確実に実施されなければならない」が、置き去りにされることがないよう注視するとともに、中間支援団体としてこれまで以上にその責務を自覚し、「尊厳あるふくしま」を真に取り戻すために奮闘する決意である。

2021年3月11日
一般社団法人 ふくしま連携復興センター
代表理事 天野和彦